作品の背景にある重力について
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知覚

重力は第6の知覚と呼べるのではないだろうか。
私達の身体は内耳にある三半規管が重力を捕らえ抵抗している。車に乗ってほんの少しこの知覚を揺すぶられただけで酔ってしまう程、重力と身体の関係性は深い。知覚を補助し身体機能を補完するものとして、目には眼鏡、耳には補聴器が装着されるように、人口内耳は重力という知覚を補い、長年の重力の歪みで衰えた老人は転ばなくなると言う。
私は身体の知覚機能をインターフェイスとしたインタラクティヴ作品を制作してきているが、知覚というある意味複雑で広範囲なテーマに、これら視覚、聴覚、触覚、あるいは第6の知覚、重力覚と言われている重力など、それぞれのインターフェイスを個別に研究、制作しながらプロジェクトを進めている。各プロジェクトは「インターフェイス自体は、我々の内側に存在している」ということを軸に制作されている。
重力と抵抗

人はなぜ、嬉しい時には上を見上げ、胸が高鳴り、飛び上がるのか、そして、悲しい時は首をもたれ、うつむくのか。これらは、私達は精神までも重力に縛られていることの表れであり、「上下」という価値観は、神は常に上方に存在し、地獄は地下にあるとされていることからもうかがえる。日本語/外国語に関係なく、言葉の中にも「方向」から由来しているものが多く、上司/部下、左翼/右翼、上流階級/下層階級、沈む、陥る、奈落の底、上から監視される、気分は上々など、有象無象に存在する。
上下左右という「方向」は、身体が重力の働く環境の中で機能しているという事実から生じ、私達の空間概念に深く取り付いて離れようがない。「崩れ落ちるツインタワー」という「重力と抵抗」の構図の前にも、私達はただ見るだけで無力だった。このように、私達は重力からは逃れられない生活環境に存在し、建築物の形態はもちろんのこと、室内空間、プロダクト製品、身体、内臓、あらゆる有機物、細胞まで、地上に存在する全てが重力という力の支配が形を変えたものといってもいい。
そして、重力は「自然界に存在するといわれる4つの力のうちの一つ」で、もっとも弱い力、「全てのものがお互いに引き合う力」である。今回の作品は、この物理作用に着目し、日常空間と地球の質量との圧倒的な差を感じながら、重力という広大で深遠な圧倒的な力の一部を切り取って提示したプロジェクトである。
© Gravity and Resistance project 2004